同じ赤色の自転車が並んでいた道
同じような形。同じような向きで。
(自転車感度が高い人にとっては、まったく違う自転車に見えるだろう)
この前を通りかかった時、右の自転車は、いままさにそこに留められたばかりだった。 そして、左の片方の自転車が、風で倒れるのを僕は見た。
それを右の自転車の持ち主が、抱き起こしていた。 「なんて良い人なんだ」と僕は思った。
だけど彼女が右の自転車の持ち主だというのは、ただの見間違えで、実は左の自転車の持ち主が、自分の自転車を起こしただけだったのかもしれない。 それならば、彼女はすごく良い人ではなくて、普通の人ということになる。
事実は分からない。
このようなことを考えたのは、ほんの5秒間ほどのことである。 人間の心は、ほんの数秒の間にも、こうしてストーリーを組み立てるものだ。
そんな朝の、一瞬の話の話。